ユーザー目線から考えるチャットボット設計

チャットボットは、自らの質問に対してFAQページから探す手間なく、回答を教えてくれます。このようにユーザーはすぐに疑問を解決できる上、カスタマーサポート担当者としても、チャットボットが自動的に回答してくれることで、対応工数の削減はもちろん顧客満足度向上に繋がるなどのメリットがあります。

今回は、チャットボットの設計や運用を行っている方に向けて、使いやすいチャットボットを構築するために、ユーザー目線に立ったチャットボットというテーマでまとめてみたいと思います。

満足度の差は「ユーザー負荷」から生じる?

多くの企業でチャットボットの導入が進む中、実際に利用してみると、「分かりやすい」「役に立つ」と感じるものから「分かりにくい」「求めている回答に中々辿り着けない」などと感じるものまで様々です。
このポジティブなチャット体験とネガティブなチャット体験は、何が要因で生まれるのでしょうか。
仮説として、『ユーザー負荷の違い』ではないかと考えました。

チャットボットを利用するユーザーは、『質問したことに対して何でも答えてくれる』と期待している場合が多いと思います。チャットボットに質問をしてすぐに解決できれば良いのですが、解決できずに、結局自分で調べなければならない場合、ユーザー負荷が変わらないどころか、むしろ期待していた分、マイナスな感情を抱いてしまう可能性があります。

回答としてURLを案内することは、ユーザー負荷を下げるのか

チャットボットの導線の1つとして、質問内容に相当する既存ページのURLを回答として登録する場合があります。チャットボットの特性として、長文での案内は不向きであるため、詳細な説明が必要な場合はヘルプページなどを案内した方が良い場合もあります。しかし、このURLを案内する返答が多いとユーザーはどう感じるでしょう。

このURLを活用した対応に焦点を当て、『ユーザー負荷の違い』に関して比較検証を行いました。

比較検証の対象
・チャットボット内でURLを案内した場合
・チャットボット内でURLを使わないで回答した場合

チャットボットでURLを案内している比率

図1

チャットボットでURLを案内しているチャネル別の比率は、LINEが約74%、WEBが約30%でした。LINEの方がURLを含むメッセージ比率が高い理由は、FAQとして利用ではなく、商品レコメンドを目的としてwebサイトへ遷移させる導線を利用しているからだと思われます。

アンケート回答率と解決率の違い

図2

当社では、チャットボット利用後に「解決しましたか?役に立ちましたか?」というアンケートを実施しております。
この実績値を元に、チャネル別×URL有無でのチャットボット利用後のアンケート回答率と解決率を調べてみました。

■アンケート回答率
LINE:URLの有無で7.8%ptと若干差が見られる
WEB:URLの有無で2.3%ptと大きな差は見られない

■解決率
LINE:URLなしの方が14%ptほど高い
WEB:URLなしの方が19%ptほど高い

※解決率:アンケートに対する回答が「はい」の比率(計算式:「はい」の回答数/アンケート回答数)

検証前に下記2つの仮説を立てていましたが、ほぼ仮説通りの傾向が見られました。
・URLありの方がチャットボットから別ページへの遷移が必要な為、アンケート回収率が低い
・URLなしの方が、チャットボット内で知りたい回答が得られる為、解決率が高い

しかし、URLありはアンケート回収率がもう少し低い想定でしたが、実際は2.3%pt-7.8%ptとそこまで大きな差はありませんでした。

一方でURLありの方が、LINE、WEBどちらのチャネルの場合も解決率が極端に低い傾向があります。

この結果から、実際にページ遷移する前に、チャットボットからの回答でURLを表示された段階で、「解決しなかった/役に立たなかった」と判断しているユーザーが多いのではないか?
と考えております。

案内されたURLのページを確認した後、解決しなかったからチャットボットに戻り、「解決した/解決しなかった」とアンケートに回答しているユーザーもいるかもしれませんが、導線を考えても少数派かと思います。

その為、チャットボットに対して、チャットボット内での回答を期待していたが、URLを案内されてしまったことに対して、「解決しなかった/役に立たなかった」と答えている、つまり、質問に対する回答先のURLがあっているかどうかではなく、チャットボット内で解決しなかったことに対して「解決しなかった/役に立たなかった」と答えているユーザーが多くいるのではないでしょうか?

業界/サービス別でのURL有無による解決率の差

図3

業界/サービス別でのURL有無による解決率の差は、LINEでは図2のチャネル別での傾向に比べて、それほど大きな差は見られないことが分かります。

一方でWEBの場合は、業界/サービス別でURLなしの方が-4%pt~+33%ptと傾向差が見られます。

LINEにおける解決率の差がほとんど見られないのは、業界/サービス別のデータが少ないため一概には言えませんが、図1にお伝えした商品レコメンドとしての利用が多い可能性にに加え、スタンプやメッセージ配信においてページ遷移することに抵抗がないことが、理由の1つではないでしょうか。

WEBの場合はFAQとしての利用が多く、また業界/サービスによって詳細な説明や回答をする必要があるため、URLなしの方が解決率が高いという傾向がが見られるのではないかと考えております。

まとめ

分かりやすいと思い、既にある該当ページに案内することも多いかと思いますが、『質問したことに対して何でも答えてくれる』と期待してチャットボットを利用しているユーザーも一定数いるでしょう。案内された該当ページで、自分の質問や疑問に対する回答を探すということは「ユーザー負荷」に繋がっていると考えられます。

今回紹介したURLでの案内の有無による解決率の差を見ても、チャットボットの体験の差は『ユーザー負荷の違い』であるという仮説は大きく外れていないのではと思います。

当社では、
・想定されるユーザーの立場に合わせて分岐を分けた回答にする
・テキストが分かりづらい内容は、画像や動画で案内する
などユーザーにとってポジティブな体験になるような工夫の実施と検証を続けております。

このような”ユーザー目線に立った運用”を意識してみてはいかがでしょうか。

執筆:柾屋 利昭

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