Forward Deployed Engineer(FDE)職はじめました

こんにちは。
AI Shift CTOの青野(brn)です。

本記事は AI Shift Advent Calendar 2025 23日目の記事です。

今回はAI ShiftのForward Deployed Engineer職についてです。

あらたに私が直接統括する組織としてFDEを新設しました。
FDE職はにわかに注目され始めていますが、一体何故設立する必要があるのか、従来のSIとの違い。
それを説明できればと思います。

ちなみに以前は
https://www.ai-shift.co.jp/techblog/3113
みたいな記事を書いていました。
今回は固めに組織向けの記事をちゃんと書きましたので御覧ください〜

はじめに

AI Shiftではこれまでテック職のポジションとして、ソフトウェアエンジニアとML/DSエンジニアの2職種での採用を行ってきました。

この度、新たにForward Deployed Engineer(FDE)職というポジションを明確に打ち出し、採用を進めていくこととしました。この記事では、その理由やFDEとは何か、AI Shiftとしての考えをお伝えします。

FDEとは

Forward Deployed Engineer(FDE)とは、2003年に設立されたデータ分析企業Palantirが確立した職種です。

Palantirは政府機関や大企業の複雑な問題を解決するため、エンジニアを顧客の現場に派遣し、技術と業務の両面から課題解決を行うモデルを作り上げました。FDEは単なる技術提供ではなく、顧客の業務に深く入り込み、技術実装から運用まで一気通貫で担う役割です。

このアプローチにより、Palantirは従来のSaaSやコンサルティングでは解決できなかった複雑な課題に対応し、顧客との深い信頼関係を築いてきました。

FDEの特徴

もちろんPalantirが当時置かれていた状況と今我々が向かう市場は異なります。AI Shiftでは、Palantirのモデルを参考にしつつ、自社のプロダクトと市場に適したFDEモデルを構築していきます。

FDEで重要なことは、Palantirの哲学である "Do Things that don't scale, at scale"。一見スケールしないように見える「顧客課題のど真ん中にエンジニアを置く」動きを、プラットフォームと仕組みでスケールさせるということです。FDEの本質は、エンジニアを問題の近くに置き、現場でしか得られないインサイトを素早くプロダクトに反映することにあります。

具体的には、以下の役割を担います:

  • 要件定義から実装まで:お客様の業務分析、AI導入の要件定義、システム設計、実装、テストまでを一気通貫で担当
  • プロダクトとの橋渡し:現場で得た知見をプロダクトチームにフィードバックし、プラットフォームの改善に貢献
  • 顧客との伴走:導入後の運用支援、効果測定、継続的な改善提案まで顧客に寄り添う
  • 技術実装の責任:AI Worker Platform上での開発に加え、必要に応じて顧客環境に合わせたインフラ構築や外部システム連携も実施
  • Time-to-first outcomeの最大化:顧客に最初の価値が届くまでの時間を短縮し、早期に成果を実感できる状態を作る

この活動を通じて、FDEは以下の3つの役割を循環させます。

  • 顧客にとっての頼れる技術リード
  • 事業にとっての顧客インサイトナレッジ収集
  • プロダクトにとっての機能フィードバック

AI Shiftの現在

AI Shiftは基本的にBtoB向けのサービスを展開している会社です。私たちは自らのミッションを

人とAIの協働を実現し、人類に生産性革命を起こす

と設定し、お客様の業務をAI化することに心血を注いでまいりました。

このミッションを実現するための製品として、AI ShiftではAI Workerブランドのもと、以下の3つのプロダクトをお客様にご提供しています。

  • Chat:テキストベースのAI対話システム
  • Voice:音声対応のAIエージェント
  • Platform:業務プロセス全体をAI化するための統合プラットフォーム

これまでの課題

これらのプロダクトを展開する中で、私たちは単なるSaaSプロダクトの提供のみでは乗り越えられない壁を何度も経験してきました。

具体的には:

  • 個別システム連携の複雑さ:お客様ごとに異なる社内システムや外部APIとの連携が必要で、標準的なSaaS機能だけでは対応できない
  • 業務理解の深さ:AIを本当に活用するには、お客様の業務フローや組織構造、現場のペインポイントを深く理解する必要がある
  • 導入から運用までのギャップ:PoCは成功しても、本番運用に移行する際に技術的・組織的な障壁が発生する
  • 効果測定とPDCA:AI導入の効果を適切に測定し、継続的に改善するための仕組みが必要

私たちは6年間、この壁を乗り越えるべく様々な工夫をしてきました。それが現在、AI Shiftの強みとなっています。

なぜFDE職を設立したのか

VoiceAgentでの経験

私たちは2019年にVoiceAgentをリリースして以来、徹底的に顧客へ向き合ってきました。VoiceAgentでは単なる応答の自動化ではなく、実際にオペレーター様が行っている業務の負荷を下げることを考え続けてきました。

そのためには、お客様が持つシステムへの個別対応を常に行い、時にはお客様のAPI設計を一緒に行ったり、事業責任者が電話を使う現場に張り付いてコール対応を観察したりと、地味ですが真の意味での活用を目指しひたむきに走ってきました。

AI Worker Platformでの新たな課題

2024年にAI Worker Platformをリリースして以来、コールだけではなく、ありとあらゆるお客様の業務をAI化できるようになりました。VoiceAgentで培ってきた「お客様の業務と徹底的に向き合う」という価値観を引き継いでいます。

しかし、AI Worker PlatformではVoiceAgentで行ってきた業務のAI化を遥かに超える複雑な対応が必要となりました:

  • 扱う業務領域の広がり:コール対応だけでなく、バックオフィス業務、営業支援、データ分析など多岐にわたる
  • システム連携の複雑化:複数の社内システム、外部API、データベースなどを横断的に連携させる必要がある
  • ワークフロー設計の高度化:単一のタスクではなく、複数のプロセスを組み合わせた高度なワークフローを設計する
  • 技術スタックの多様化:Python、JavaScript、クラウドインフラ、データベースなど幅広い技術領域への対応が必要

ビジネステック職からFDE職へ

これらの課題に対応するため、社内で2024年よりビジネステック職を作り採用を行ってきました。

ビジネステック職は、ビジネスと技術の両面を理解し、お客様との接点で活躍する役割として機能してきました。しかし、お客様が増え、案件の複雑度が上がるにつれて、以下の課題が明らかになりました:

  • 技術的深さの不足:より高度な技術実装やインフラ構築が求められるようになった
  • プロダクト連携の強化:現場の知見をプロダクト改善に効果的にフィードバックする仕組みが必要
  • 組織としてのスケール:個人のスキルに依存せず、組織として再現可能なモデルを確立する必要がある
  • キャリアパスの明確化:技術とビジネスの両面で成長できるキャリアパスを明確にする必要がある

そこで今回、これらの課題を解決し、より高い技術力と業務理解力を兼ね備えた役割として、正式にForward Deployed Engineer職の設立を決定いたしました。

日本企業が抱えるAI活用の課題

ここで、日本企業が抱えるDX・AI活用の課題について見ていきます。これは、FDE職が解決を目指す課題でもあります。

AI活用の前に重要なのが、基本的なデジタル化です。LLM時代において、デジタル化されていないデータは活用が困難です。

さらに、単にデジタル化するだけでは不十分で、価値のあるデータとして整形・保存しておく必要があります。つまり、AI活用には戦略的なDXの基盤が必要です。

日本の企業の課題は大きく分けて2つあると考えています。

  • DX人材の不足
  • DXの成果が上がっていない

日本のDXについての現状

以下は「DX白書2025」(IPA発行)からの抜粋です。

取組状況

DX動向2025_dx_取り組み

出典:https://www.ipa.go.jp/digital/chousa/dx-trend/dx-trend-2025.html

日本でもDXの取り組み自体は行われており、全体戦略として実施している企業は、アメリカとほぼ同水準です。

人材不足

DX動向2025_人材_量

一方、DX人材の量は圧倒的に不足しています。「大幅に不足している」と答える割合が、アメリカ・ドイツと比べて顕著に高くなっています。

DX動向2025_人材_質

質に関しても同様の状況です。2021年から2022年にかけて質の不足感が増加しており、これは取り組みの増加に人材育成が追いついていないことを示唆しています。

成果の課題

DX動向2025_成果

DXへの取り組み成果については、日本では過半数が成果を実感している一方、アメリカ・ドイツと比較すると「成果が出ていない」「わからない」という回答が多くなっています。

DX動向2025_成果理由

成果がわからない理由として、KGI・KPIの未設定が最も大きな要因となっています。

DX動向2025_成果指標

実際、多くの企業でDXの成果目標が未設定となっています。取り組みは進んでいても、その成果を適切に評価する仕組みが不足している状況です。

生成AI活用

DX動向2025_生成ai

生成AI活用については、日本では個人利用が多い一方、業務プロセスへの組み込みは少ない状況です。これは、DXの基盤整備が不十分なまま生成AIの活用を進めようとしていることの表れとも言えます。

AI Shiftが目指すこと

これまで見てきた日本のDX課題の根本には、「思考と実行を高いレベルで繰り返せる人材の不足」があると考えています。

次々に新たなテクノロジーが現れ、部門間を調整し、戦略を作り直し、実装し、効果を測定し、改善する——この一連のサイクルを回せる人材が圧倒的に不足しているのです。

AI Shiftでは、この課題に対して以下のアプローチで取り組みます:

1. SaaSだけでは解決できない課題への対応

単純なSaaSの導入では、日本企業のDX課題は解決が難しいと考えています。なぜなら:

  • Fit to Standardを実行できる人材が不足:SaaSに合わせて業務プロセスを変革するには、社内調整、トレーニング、変革管理など膨大な労力が必要
  • 既存システムとの統合の複雑さ:長年運用されてきたレガシーシステムとの統合には、深い技術理解と実装力が必要
  • 業務に即したカスタマイズ:業界や企業ごとに異なる業務特性に対応するには、柔軟な実装が必要

2. コンサルティングとエンジニアリングの融合

AI Shiftでは、コンサルタントとFDEが協働することで、戦略立案から実装・運用まで一貫して支援します:

  • コンサルタント:業務分析、AI導入戦略の策定、KPI/KGI設計、組織変革支援
  • FDE:技術実装、システム統合、ワークフロー開発、運用支援、効果測定
  • 両者の協働:戦略と実装を行き来しながら、現実的かつ効果的なAI導入を実現

この体制により、「考えるだけで実行できない」「実装はできるが戦略がない」という従来の課題を乗り越えます。

3. AI Worker Platformによる実装基盤

AI Worker Platformは、FDEの活動を支える中核となるプロダクトです。
このプラットフォームを基盤としてAIの業務導入を行うことでフルスクラッチよりも遥かに早く・安くAI導入を進めることが可能です。

主な機能:

  • Workflow開発環境:ノーコード/ローコードでのワークフロー作成、テスト、バージョン管理
  • Pythonコード実行:スケーラブルなフルPython環境で柔軟な処理を実装
  • エージェント機能:自律的に判断・実行できるAIエージェントの構築
  • データ管理:コンテキスト管理、データベース連携、外部API統合
  • UI/UX:業務に必要なインターフェースの提供

FDEはこのプラットフォームを基盤としつつ、必要に応じて顧客環境に合わせたインフラ構築や個別開発も行います。ここで重視するのがTime-to-first outcome、つまり「顧客が最初に価値を感じるまでの時間」を最短化することです。初期は手作業や設定変更であっても構わず早期に価値を届け、得られたインサイトを迅速に反映することで、スケールしないように見えることを仕組みでスケールさせていきます。

4. プロダクトへのフィードバックループ

FDEは顧客との接点で得た知見を、継続的にプロダクトチームにフィードバックします。私たちは

  1. できるだけ問題の近くにいる
  2. リモートでは手に入らないインサイトを手に入れる
  3. フィードバックをプロダクトに持ち帰る
  4. プロダクトはフィードバックを組み込む

という1→4のループをいかに速く正確に回すかを重視します。

  • 機能改善の提案:現場で必要とされる機能を具体的に提案
  • バグや制約の報告:実運用で発見した課題を迅速に共有
  • ユースケースの蓄積:成功事例をドキュメント化し、他の導入案件に活用
  • プラットフォームの進化:現場の声を反映したプロダクトロードマップの策定

このサイクルがうまく回ると、「新たなコードを書くより設定変更だけで価値を届けられる」ケースが増えます。これは、現場の知見が十分にプラットフォームへ吸収されている組織の健康指標と考えています。

FDEの仕事

ミッション

FDEのミッションは、お客様の業務に深く入り込み、技術でAIDX(AI×DX)を成功に導くことです。

具体的には:

  • お客様の業務分析と課題の特定
  • AI導入計画の技術面での設計
  • AI Worker Platform上でのワークフロー開発
  • 外部システムとの連携実装
  • 導入後の運用支援と効果測定
  • 継続的な改善提案と実装

といったことを進めていきます。FDEは常に顧客の近くに身を置き、質問に即応し、得たインサイトを一般化・抽象化してプロダクトへ還元することで、Time-to-first outcomeを押し上げます。

この仕事の魅力

顧客の業務改革を技術でリードできる

FDEは、お客様の業務に最も近い場所で働くエンジニアです。単にコードを書くだけではなく、お客様の課題を深く理解し、技術を駆使して実際の業務改革を実現します。お客様からの直接的な感謝の言葉を受け取れるのは、FDEならではの醍醐味です。

プロダクトの進化に貢献できる

FDEは顧客との接点で得た知見を、プロダクトの進化に反映させることができます。現場の声を製品に届け、次のバージョンで実装される——そんなサイクルの中心にいることができます。

幅広い技術スキルを磨ける

FDEに求められるスキルセットは幅広く、フロントエンド・バックエンド開発、インフラ構築、AI/ML、データベース設計、API設計など、様々な技術に触れる機会があります。さらに、ビジネスサイドとのコミュニケーション、要件定義、プロジェクトマネジメントなど、技術以外のスキルも磨けます。

この仕事の難しさ

幅広い技術力が求められる

FDEは、お客様にとってAI Shiftの技術面での窓口となります。そのため、幅広いIT・ソフトウェア・インフラの知識が必要となります。

主な技術領域:

  • プログラミング言語(Python、JavaScript/TypeScriptなど)
  • クラウドインフラ(AWS、GCP、Azureなど)
  • データベース設計とSQL
  • API設計とシステム間連携
  • セキュリティとコンプライアンス
  • LLMとプロンプトエンジニアリング

業務ドメインの理解が必須

お客様の業務は、業界や企業によって大きく異なります。技術だけでなく、お客様のビジネスや業務フローを深く理解し、真の課題を見極める力が必要です。

即座の判断と実行が求められる

お客様との打ち合わせの場で技術的な判断を求められたり、導入済みのシステムにトラブルが発生したときに迅速に対応したりする場面があります。このような状況で冷静に判断し、実行できる力が求められます。

継続的な学習が必要

AI・LLMの分野は日々進化しています。常に最新の技術動向をキャッチアップし、それをお客様の課題解決に活かせるかを考え続ける必要があります。

FDEに向いている人

以下は私がFDEに向いていると考える人の特徴です。

  • 技術で実際のビジネス課題を解決することに情熱を持てる人
  • お客様と直接コミュニケーションを取ることを楽しめる人
  • 幅広い技術領域に興味があり、常に学び続けられる人
  • 不確実性の高い環境で、自律的に判断し行動できる人
  • チームで協働しながら、大きな目標を達成することにやりがいを感じる人

まあ、つまり技術でビジネスを引っ張っていきたい人って感じです。

まとめ

AI ShiftはForward Deployed Engineer(FDE)職を正式に設立しました。

FDEは、お客様の業務に深く入り込み、技術でAIDXを成功に導く役割です。コンサルタントと協働しながら、戦略立案から実装・運用まで一貫して支援し、お客様のビジネス変革を実現します。

私たちは、AI Worker Platform + コンサルタント + FDEの三位一体で、日本企業のAI活用を推進していきます。「Do Things that don't scale, at scale」を合言葉に、Time-to-first outcomeを最大化し、設定変更だけで価値を届けられる領域を広げ続ける組織を目指します。

詳細な業務内容については、今後FDEメンバーから発信していく予定です。


AI ShiftではFDE職・ソフトウェアエンジニア職を募集しています。

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